大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台家庭裁判所古川支部 昭和45年(家)616号 審判

申立人 川田俊治(仮名)

被相続人亡 川田浩司(仮名)

主文

被相続人亡川田浩司の相続財産中別紙目録記載の物件を申立人に分与する。

理由

一、申立人は主文同旨の審判を求め、その理由とするところは、

(一)  被相続人川田浩司は申立人の父亡川田末吉(以下亡末吉と略称)の母みやこの兄正夫の子で亡末吉とは従兄の間柄である。

(二)  被相続人は幼少の頃両親に死別され、亡末吉とともに祖母きよの養育を受けていたが、二一歳の頃密航渡米し、以後一度も帰国したことなく、昭和四二年一一月六日死亡した。

その間同人は北川とくと婚姻したが、二人の間に子はなく、妻とくも昭和二七年七月五日死亡した。

(三)  被相続人には渡米する当時、同人が相続により有していた別紙目録記載の不動産があつたので、同人の伯母たる川田まつえが事実上管理していたが、まつえも昭和八年一二月二日死亡したため親族が協議した結果、以後亡末吉が管理することとし、公課等をすべて負担し、家屋の補修をし、現在に至つている。

その間被相続人より亡末吉宛の音信が三回位あり、最後は昭和三八年頃で「私も身体を弱くし帰国もむづかしいので、祖先の祭祀をやつて欲しい、もし私が死亡した場合には財産は君のものとなる」との内容であつた。

もとより亡末吉は祖先の祭祀と相続財産の管理を以前より併せて引続き行つていた。

(四)  ところで別紙目録記載の本件遺産につき、申立人が相続財産管理人に選任されて民法所定の相続人捜索等の手続をしたが、相続人のあることが判明せず、相続権の主張をする者もなかつた。

(五)  以上の如く被相続人には相続人がなく、亡末吉が被相続人と特別の縁故があつた者になるから、相続財産中別紙目録記載の不動産の分与を求めていたところ、同人が死亡し、その相続人中申立人を除く全員が相続を放棄し、申立人がその地位を承継した。

というものである。

二、亡末吉は本件申立をした後、昭和四六年五月一八日死亡し、相続人中、長男たる申立人を除く他の相続人らは相続放棄申述をし、受理され、申立人のみが亡末吉の相続人となり、承継申立をしたものであり、また申立人はそれまで相続財産管理人であつたため、辞任申出をし、職権にて新たに川田はつ子が相続財産管理人に選任された。

三、ところで別件相続財産管理人選任事件、相続人捜索事件の各記録および本件記録添付の○○町長発行の納税証明書ならびに申立人、承継人、相続財産管理人審問の結果によると、被相続人、亡末吉および申立人の身分関係ならびに被相続人が死亡するまでの経過が申立人主張のとおりであること、申立人主張のとおり亡末吉が本件相続財産を管理支配し、公課も完納しており、併せて被相続人家の位牌を保管し、墳墓の管理、祭祀を行い申立人がこれを受け継いで現在に至つていることが認められる。

また本件申立も民法所定の手続を経て適法な期間内に申立られ、同期間内に亡末吉以外の者から同趣旨の申立があつた事実は認められない。

右の事実からすれば亡末吉は被相続人とは特別の縁故があつた者と認められるし、同人が死亡した場合には、その相続人が相続財産分与の申立をする地位を承継してその分与を求め得ると解すべきであるから、申立人の本件申立はこれを相当と認め、相続財産管理人の意見を聴き主文のとおり審判する。

(家事審判官 斎藤清実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例